淀川長治:明治、大正、昭和、平成にかけて生涯現役、映画一筋に生きた不世出の映画評論家 - 世界クラシック名画撰集

淀川長治:明治、大正、昭和、平成にかけて生涯現役、映画一筋に生きた不世出の映画評論家
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群衆

 

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群衆
MEET JOHN DOE
 
これぞアメリカン・スピリット。巨匠キャプラ監督が社会正義とマスコミの虚構を訴える
円熟の頂点にあった『或る夜の出来事』『素晴らしき哉、人生!』のキャプラ監督がスーパースター主演で送り出したエンタテインメント。
リストラになった女性新聞記者が「社会に抗議して飛び降り自殺する」とジョン・ドー(裁判で原告が使う仮名=映画の原名)名義でタイプした投書を残して社を飛び出した。
編集長は復職を条件に彼女に記事を書かせ、失業野球選手をジョン・ドーにまつり上げて販売成績を伸ばす。
扇動された群衆は偶像に熱狂した。

 
 
  • 原題:MEET JOHN DOE
  • 監督:フランク・キャプラ
  • 脚本:
  • キャスト:ゲーリー・クーパー/バーバラ・スタンウィック
  • 製作年:1941年
  • 製作国:アメリカ

フランクキャプラの『群衆』。

ゲーリー・クーパ、バーバラ・スタンウィック、面白かったね。
ところが面白かったねというのは私で、みなさんは初めてご覧になる方が多いと思います。
これおもしろかった。

で、この話はもうご覧になったら分かるけども、働いているバーバラ・スタンウィック、そこに上からボーイがやってきて言うんですね。
「あらどうしたの。」
「お前クビだよ。」

急にいまクビ?よくもそんなことぬかすな、というんでバタバタバタとタイプライターで、 正義とは何だ、こんなばかなことはない、なぜ私をクビにするんだ、正義というものは世の中にあるのか、と書いて輪転機に放り込んで、その時に“ジョン・ドー”と書いたんですね。
全然いない人、つまり“井上太郎”みたいな名前を書いたんですね。

さあそれで、ここの社長怒ったのね。誰だこれ印刷したの!新聞に出たやないか、こんな原稿誰が書いたの!と大騒ぎしたら、えらい評判になって、みんながジョン・ドーという人偉いわ、偉いわということで逆に探してきて、もっと書けって。
バーバラ・スタンウィックはもっと月給くれたら書きますよ、言うたんですね。
それで月給あげて、毎日毎日書いた。

えらい人気になって、ジョン・ドー、ジョン・ドーいいな、いいなって、ジョン・ドーの写真見せてくれ言うたんですね。
ゲーリー・クーパー出てった時に、あんたいいですよ、あんた使いますよと言ったんです。
ゲーリー・クーパーがいかにも自分が望んでいるタイプの男だったから。

そうして、
「これからさ、写真とるから、そこに座んなさい、で、怒った顔してください。」
「おれちっとも腹がたたないよ、今働く仕事がみつかったところで、おまけに、こんな昼飯なんか並んだから、おれはうれしくてにこにこしているんだよ。」
「けどあんた怒る役しなさいよ。」
「怒れないよ。」
「でもあんた野球選手だったんだろ。」
「うん。」
「そうしたら、野球でセーフの時、もしもアウトいうたらどうする。」
「そんなばかなこと」
って、パッとそこんとこ撮ったのね。
で、怒っているところ撮って、新聞にジョン・ドーって男がでてきて、正義はこれこれこれこれっていうところから始まっていくんですね。

そうしたらこの人のファン・クラブしようってえらいことになってきて、ジョン・ドーはみんなの前で演説しないといけない。
ジョン・ドーはそんなことぜんぜん出来ない。
それをバーバラ・スタンウィックが原稿書いて、ジョン・ドーが読むんですね。
正義とはこういうものだ、これこれだ。

みんなはそれで、ジョン・ドーさんは偉い人だなーっ。
だからそれがサンフランシスコでもニューヨークでも、ロサンゼルスでもどんどんよびだしてきて、ジョン・ドーは各地にいったんですね。各地でその原稿読んだんですね。
読むうちに自分でしゃべれるようになったんですね。
正義とはこういうもんだ、ああいうもんだ、ってえらいことになって、ジョン・ドーは本当のジョン・ドーになったんですね。

さあそういう話だけど、ここでジョン・ドー自身が実はおれは違うんだ、おれはジョン・ド−でないんだと言わないと、おれ生きていれないと言い出したんですね。
バーバラ・スタンウィックが
「あんたいいじゃないの、これだけ有名になったらそうなったらいいじゃないの、自分で原稿書かなくてもしゃべれるんだから、本当のジョン・ドーになったらいいじゃないの」
「おれはジョン・ドーじゃないんだから、嘘のジョンドーになっているのはいやだ」 
それで、みんなの前で俺は死ぬんだっていうところがラストになるんです。

屋上あがって「俺は死ぬよ」、バーバラ・スタンウィックが「だめよーっ」ていう、このラストがまたいいんですね。
というわけで、この『群衆』、これはフランク・キャプラ、ゲーリー・クーパー、バーバラ・スタンウィックの名作ですよ。 

【解説:淀川長治】


 

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